研究概要

1.長周期地震動を受ける都市重要構造物の地震対策技術に関する研究


図1 長大構造物を揺らす長周期地震動の脅威

21世紀半ばまでに発生する可能性が高い南海トラフ巨大地震は、都市の基幹を担う重要構造物に重大な被害をもたらしかねない。とくに、固有周期の長い超高層建築物や免震建築物、長大橋、石油タンクなどは長周期地震動によって共振する性質をもっている。実際、2011年東日本大震災では、東京の超高層建築物が大きく揺れたことが話題になった。また、震源から700km以上離れた大阪此花の超高層建築物では、天井パネルの落下やエレベーターの閉じ込め被害などが発生した。この他、超高層建築物においては、繰り返しの揺れによる構造被害の拡大や、室内の家具の移動・転倒などの危険性がある。

そこで、超高層建築物に代表される都市重要構造物の耐震対策として、「物・財産を守る技術(都市重要構造物の耐震性能評価・向上技術の開発)」、「人を守る技術(居住空間の安全性の確保と避難・危険回避方法の開発)」、「生活を守る技術(居住者の視点に立った地震対策の支援方法の開発)」の3つの観点から研究開発を行い、それらを有機的に結びつけた長周期地震動を受ける都市重要構造物の地震対策技術を総合的に検討する。

関連研究

  • 科学研究費補助金(基盤研究(A))「長周期地震動を受ける超高層集合住宅の物・人・生活を守る技術の開発」(平成22年~24年)
  • 国土交通省基準整備事業「長周期地震動に対する鉄筋コンクリート造建物の安全性検証方法に関する検討」(平成22年~24年)

学会活動・社会貢献等

  • 2007 日本建築学会 超高層建物ワーキンググループ幹事
  • 2009 日本建築学会 高機能社会耐震工学ワーキンググループ委員
  • 2010 日本建築学会 長周期建物地震応答小委員会委員

2.巨大地震・津波に備えた都市・建築物の耐震化に向けた取り組み


図2 非線形地震応答解析ソフトウェアSTERA3Dの開発と公開

南海トラフを震源とする巨大地震・津波に備えるために官学民が連携して都市・建築物の耐震化を進める必要があり、学の立場からの支援を行う。具体的には、地盤・建築物に対する強震観測等のモニタリングや構造実験を行い、実現象を明らかにするとともに、精密な地震応答解析手法を駆使して、巨大地震や津波に対する建築物の応答と損傷特性を安全性、機能保持性、修復性の観点から定量化する。また、損傷防止と機能性および室内安全性を確保するための補強・制振技術、安全対策技術を開発し、その有効性を実験的に確かめる。さらに、被災に伴う人的被害・経済的損失を最小限に食い止めるために、民間に対しては事業継続計画策定のための被災リスクの評価や効率的な耐震改修技術に関わる支援を行う。また、住民に対しては、自治体や地域の防災組織等と協力して、地震・津波時の避難や住宅の耐震改修促進のための防災教育や防災行動計画の策定、耐震診断・改修の促進施策の支援を行う。

関連研究

  • 鉄筋コンクリート造建築物の非線形地震応答解析ソフトウェアSTERA3Dの開発と公開
  • 独立行政法人建築研究所の強震観測事業への参加

学会活動・社会貢献等

  • 日本地震工学会理事(2011年5月~2013年5月)会誌編集委員長
  • 耐震改修促進シンポジウムの開催(主催:独立行政法人建築研究所)
    • 2008年3月 第1回 耐震改修への決断 -建物オーナーから見た耐震改修のメリットとは-
    • 2009年1月 第2回 戸建住宅の耐震改修-施主が動く仕組み作りへ-
    • 2011年3月 第3回 地域毎にカスタマイズされた耐震改修施策の立案に向けて

3.地震災害軽減に向けた国際協力の推進


写真1 技術協力調印式(ルーマニア、2002)

写真2 国際会議開催(中国南京、2008)

地震災害の軽減は世界的な課題であり、日本がリーダーシップをとって海外諸国と一緒に取り組まなければならない。そのための国際会議の開催や国際技術協力の推進を行う。とくに、免震・制振技術の普及と技術基準の国際調和に向けた活動や海外に多い組積造建物の耐震化技術の開発を行う。教育面では、学生や若手の研究者が国際的な活動に関わる機会を設け、国際的な視野が身に付くようにするとともに、海外の研究者の受け入れを積極的に行う。こうした活動には、国や他の大学、JICA、建築研究所国際地震工学センター等の国際機関との連携が不可欠であり、関係機関とのネットワークを有効に活用する。

関連研究

  • JST-JICA地球規模課題対応国際科学技術協力事業(SATREPS)国際共同研究プロジェクト「ペルーにおける地震・津波減災技術の向上」(研究代表者:山崎文雄、千葉大学教授、平成21年~26年)、建物耐震グループ・リーダー
  • 独立行政法人建築研究所・運営交付金・研究課題「開発途上国の地震・津波に係る減災技術の高度化と研修の充実に資する研究」(平成24年~平成26年)、研究分担者

学会活動・社会貢献等

  • 日本免震構造協会・国際委員長(2006~)
  • CIB(建築研究国際協議会)委員会WC114(地震工学と建築)コーディネーター(2006~)
  • 独立行政法人建築研究所国際地震工学センター国際地震工学研修・講師

4.屋内運動場の被災後補修法の構築


図3 屋内運動場の被災後補修法

屋内運動場は災害時の避難施設として利用されることが多く、その耐震性能の確保は防災対策上において重要な課題である。しかしながら、①継続使用の可否を判断する明確な基準が存在しないこと、②目標復旧性能に応じた補修法が未だに確立されていないことが問題として挙げられる。その結果、防災拠点である屋内運動場が使用不可となる事例が報告されている。一方、地震発生後でも適切な被災後補修により、余震に対しても継続使用できる可能性がある。本研究では、屋内運動場の鋼部材を対象とした構造実験を行い、損傷度(残存耐力)の評価および被災後補修法の構築を目指す。

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